最大の難関① 「型」「法」「功」
- 2010/12/08
- 00:15
最大の難関①
前回までで入門から拝師までいきなり話が飛んでしまったが、入門後、数年間の修行期間にも触れてみようと思う。
入門から半年~1年位は、中国武術の学び方⑥で説明したように主に基本功や武術としての体作りに費やされるだろう。その後、中国武術系の流派であれば、やはり套路(型)を学ぶ段階が来る。
実はこの套路の学び方も門派によって本当に様々である。
最初から一つ一つの動作を完璧に仕上げながら進む門派もあれば、最初に一通りザーと型の初めから終わりまで覚えてしまい後からじっくりと内面を学んでいく門派もある。簡化套路から学ぶ流派もあれば、最初から伝統套路をやる流派もある。
一概にどのやり方が良いのかは分からないが、いずれにしろ一つの套路をある程度、体に覚えこませ馴染ませていくのには2~3年は要するだろう。
そして、その後いわゆる熟成期間に入る。言い換えれば放置期間といえるかもしれない。
套路を覚える間は、先生も付きっ切りで何度も動きを見せてくれるかもしれないが、一通りを套路を教えた後は、こちらから質問をしなければ教えてくれないし見せてもくれない、ある意味放っておかれるわけである。
急に先生の態度が変わり驚く人もいるだろうし、自分は何をどう練習すれば良いのか分からなくなってしまう方もいるかもしれない。しかし、この時期というのは、いわば修行者の自立を促している期間といえると思う。
理由は、「型」「法」「功」(門派によっては「勢」「法」「術」ともいう)といった中国武術の独特の練習段階があるからである。
順に説明していこう。
・「型」
いわゆる外形を覚える段階。姿勢に始まり、基本や型、技にいたるまで、師の動きを正確に模倣し外形を覚える段階。
・「法」
外形を覚えたら次の段階として、一つ一つの動きから、運動の法則や原理を学ぶ段階。武術として学ぶ場合は、技法の原理や法則も共に学んでいく段階。
・「功」
「型」や「法」を学んだ上で、いわゆる内形を学んでいく段階。
門派により異なるが、学生に教えても構わない「型」や「法」といった段階は、おおよそ3~6年くらいで学び終えるのではないかと思う。
ただし、「功」の段階といったものは、教えて教わるといったものではなく、ある意味、自分自身で身に付けていかなければいけない段階である。
というのも「型」は見せてあげることができるし、「法」は口で説明できるが、「功」の段階といったものは、「型」や「法」の段階を理解した上で、ある程度その人に内面の感覚ができていなければ、いくら口で説明しても理解できないからである。
一般的な段階を言えば、初心者の場合は、外形が100で内形は0である。その後、様々な基本功や套路を学んでいく中で、外形と内形の割合は、(外形90内形10 → 外形80内形20 → 外形70内形30)といった具合に少しずつ変化していく。太極拳と呼べるのは、少なくとも内形と外形の割合が、50:50からだと思う。
当初、内形は外形によって導かれるものであるが、徐々に内形と外形の立場は逆転し、内形によって外形が導かれるといった段階を目指していくことになる。
ということは「型」や「法」の段階を学んだ後は、表面上の「型」の練習を基に各自がどれだけ試行錯誤し、内面の感覚をいかに身に付け自覚できるかで、「功」の段階の練習は進められて行くということになる。この段階の指導者の仕事は唯一、修行者が間違った方向に進まないよう過った動作を行なわないように注意することである。「功」の段階というものは修行者自身が自分で身に付けていくものだと重ねて申し上げたい。
また「功」といったものは、外形を覚えるように毎回定期的に先に進むといったものではなく、数ヶ月から数年の間隔で上達の加減を見、基準に達していれば、新たな意法や呼吸法、練功法などの指導がある。
そういった理由から、いわゆる放置期間といったものがある。この期間は、各自がどれだけ自主練習を行い、何に気付き、いま何を考えているかを見られている期間と言っても良い。
実際に型をある程度学び終え、放置期間に置かれていると思う人は、いま一度、過去に先生から注意された点を思い出して、各自練習に励んでもらいたい。正直、先生の方にとってもこの段階をクリアしてもらわなければ、いくら先の套路や技法を教えたところで、結局は「型」の段階でしかなく、本当の意味での次の段階「功」に進むことができないということになる。
余談であるが、日本の中国武術・太極拳愛好家の方は、「型」の段階から先に進めずに辞めてしまう方が非常に多いようだ。まぁ型も覚えたし、年数的にも飽きや馴れといったものが出てきてしまうのだろう。また学んでいる先生自身が「型」の段階までしか習得していなければ、続けていてもどうしようもないのかもしれない。
しかし、本当の練習というのは、やはり「功」の段階から始まるといっても過言ではないと思う。言い換えれば「功」の段階というのは、自分自身が何をすれば良いのか、どうすれば上達できるのかが分かってくる段階と言える。自分の内面の力をはっきりと認識でき、どう勁を流せばよいのか、またなぜできないのか、どうやれば修正できるのかが分かってくれば、間違いなく上達していくことだろう。
難関ではあるが、この「功」の感覚を一旦掴むことができれば、逆に上達は一気に進む場合もある。
武術として学ぶ場合であれば、それまでどうしても力んでしまって相手に掛からなかった技が、すーっと力を使わずにかかるという現象も出てくる。
またいわゆる「発勁」というのも、内形の感覚が増し、その内形を圧縮すらからこそ、発する事ができるのであり、内形の伴わない段階で発してみても、変に力むくせが身に付いてしまったり、単に力を抜いて発するだけであれば、かえって関節や肺を痛めてしまうかも知れない。
最後にこの段階でのヒントを一つ述べるとしたら、それは姿勢である。姿勢や立ち方が変わるだけで、良くも悪くも全ての動きは変化する。上達もするし下達もすると言うことだ。この点を理解して、皆さんも何とかこの難関をクリアして頂きたい。
2010-12-08 記
追記
読み返してみると、よくこんな面倒くさい文章をかいたなぁと思う(笑
私自身の経験をいえば、この「功」の段階を学び始めた時期は、とにかく苦しかった事を思い出す。
型を覚える時期は、どんどん先に進むが、功の段階に入ってからは、全く先にも進めず、意味も分からず、何をどうすればよいのかさえ分からなかった。
ひとつアドバイスをするならば、形は同じでも、ある時から先生の動きが自分とは全く違う事に気付き、そこから本当の意味で研究をしだしたということだろうか。
そして、そこからがまた苦しかった。真似をしてもできないのである。いくらやってもできない。放棄してしまいそうだった。
研究、気付き、年月、量、これらを繰り返しながら、功は少しづつ育っていく。
2013,8,12 酷暑
Copyright(C)2003-2012 福岡伝統太極拳 湧泉会 All rights reserved.
当会の許可無く転載を禁じます。
中国武術の学び方⑩へ 最大の難関② 環境の変化①
中国武術の学び方のトップページへ戻る >>
中国武術の時間のトップページ へ >>
当ブログの記事が参考になった方は、ブログランキングへのご投票をして頂けると感無量です(^人^)



福岡伝統太極拳 湧泉会 公式ホームページ。
中国武術の時間 当会代表の個人ブログ
福岡八卦掌研究会 八卦掌専修教室
福岡伝統中国武術協会 協会の各教室の紹介
twitter@yusenkai 当会の練習記。
湧泉会@facebook 湧泉会公式facebook
前回までで入門から拝師までいきなり話が飛んでしまったが、入門後、数年間の修行期間にも触れてみようと思う。
入門から半年~1年位は、中国武術の学び方⑥で説明したように主に基本功や武術としての体作りに費やされるだろう。その後、中国武術系の流派であれば、やはり套路(型)を学ぶ段階が来る。
実はこの套路の学び方も門派によって本当に様々である。
最初から一つ一つの動作を完璧に仕上げながら進む門派もあれば、最初に一通りザーと型の初めから終わりまで覚えてしまい後からじっくりと内面を学んでいく門派もある。簡化套路から学ぶ流派もあれば、最初から伝統套路をやる流派もある。
一概にどのやり方が良いのかは分からないが、いずれにしろ一つの套路をある程度、体に覚えこませ馴染ませていくのには2~3年は要するだろう。
そして、その後いわゆる熟成期間に入る。言い換えれば放置期間といえるかもしれない。
套路を覚える間は、先生も付きっ切りで何度も動きを見せてくれるかもしれないが、一通りを套路を教えた後は、こちらから質問をしなければ教えてくれないし見せてもくれない、ある意味放っておかれるわけである。
急に先生の態度が変わり驚く人もいるだろうし、自分は何をどう練習すれば良いのか分からなくなってしまう方もいるかもしれない。しかし、この時期というのは、いわば修行者の自立を促している期間といえると思う。
理由は、「型」「法」「功」(門派によっては「勢」「法」「術」ともいう)といった中国武術の独特の練習段階があるからである。
順に説明していこう。
・「型」
いわゆる外形を覚える段階。姿勢に始まり、基本や型、技にいたるまで、師の動きを正確に模倣し外形を覚える段階。
・「法」
外形を覚えたら次の段階として、一つ一つの動きから、運動の法則や原理を学ぶ段階。武術として学ぶ場合は、技法の原理や法則も共に学んでいく段階。
・「功」
「型」や「法」を学んだ上で、いわゆる内形を学んでいく段階。
門派により異なるが、学生に教えても構わない「型」や「法」といった段階は、おおよそ3~6年くらいで学び終えるのではないかと思う。
ただし、「功」の段階といったものは、教えて教わるといったものではなく、ある意味、自分自身で身に付けていかなければいけない段階である。
というのも「型」は見せてあげることができるし、「法」は口で説明できるが、「功」の段階といったものは、「型」や「法」の段階を理解した上で、ある程度その人に内面の感覚ができていなければ、いくら口で説明しても理解できないからである。
一般的な段階を言えば、初心者の場合は、外形が100で内形は0である。その後、様々な基本功や套路を学んでいく中で、外形と内形の割合は、(外形90内形10 → 外形80内形20 → 外形70内形30)といった具合に少しずつ変化していく。太極拳と呼べるのは、少なくとも内形と外形の割合が、50:50からだと思う。
当初、内形は外形によって導かれるものであるが、徐々に内形と外形の立場は逆転し、内形によって外形が導かれるといった段階を目指していくことになる。
ということは「型」や「法」の段階を学んだ後は、表面上の「型」の練習を基に各自がどれだけ試行錯誤し、内面の感覚をいかに身に付け自覚できるかで、「功」の段階の練習は進められて行くということになる。この段階の指導者の仕事は唯一、修行者が間違った方向に進まないよう過った動作を行なわないように注意することである。「功」の段階というものは修行者自身が自分で身に付けていくものだと重ねて申し上げたい。
また「功」といったものは、外形を覚えるように毎回定期的に先に進むといったものではなく、数ヶ月から数年の間隔で上達の加減を見、基準に達していれば、新たな意法や呼吸法、練功法などの指導がある。
そういった理由から、いわゆる放置期間といったものがある。この期間は、各自がどれだけ自主練習を行い、何に気付き、いま何を考えているかを見られている期間と言っても良い。
実際に型をある程度学び終え、放置期間に置かれていると思う人は、いま一度、過去に先生から注意された点を思い出して、各自練習に励んでもらいたい。正直、先生の方にとってもこの段階をクリアしてもらわなければ、いくら先の套路や技法を教えたところで、結局は「型」の段階でしかなく、本当の意味での次の段階「功」に進むことができないということになる。
余談であるが、日本の中国武術・太極拳愛好家の方は、「型」の段階から先に進めずに辞めてしまう方が非常に多いようだ。まぁ型も覚えたし、年数的にも飽きや馴れといったものが出てきてしまうのだろう。また学んでいる先生自身が「型」の段階までしか習得していなければ、続けていてもどうしようもないのかもしれない。
しかし、本当の練習というのは、やはり「功」の段階から始まるといっても過言ではないと思う。言い換えれば「功」の段階というのは、自分自身が何をすれば良いのか、どうすれば上達できるのかが分かってくる段階と言える。自分の内面の力をはっきりと認識でき、どう勁を流せばよいのか、またなぜできないのか、どうやれば修正できるのかが分かってくれば、間違いなく上達していくことだろう。
難関ではあるが、この「功」の感覚を一旦掴むことができれば、逆に上達は一気に進む場合もある。
武術として学ぶ場合であれば、それまでどうしても力んでしまって相手に掛からなかった技が、すーっと力を使わずにかかるという現象も出てくる。
またいわゆる「発勁」というのも、内形の感覚が増し、その内形を圧縮すらからこそ、発する事ができるのであり、内形の伴わない段階で発してみても、変に力むくせが身に付いてしまったり、単に力を抜いて発するだけであれば、かえって関節や肺を痛めてしまうかも知れない。
最後にこの段階でのヒントを一つ述べるとしたら、それは姿勢である。姿勢や立ち方が変わるだけで、良くも悪くも全ての動きは変化する。上達もするし下達もすると言うことだ。この点を理解して、皆さんも何とかこの難関をクリアして頂きたい。
2010-12-08 記
追記
読み返してみると、よくこんな面倒くさい文章をかいたなぁと思う(笑
私自身の経験をいえば、この「功」の段階を学び始めた時期は、とにかく苦しかった事を思い出す。
型を覚える時期は、どんどん先に進むが、功の段階に入ってからは、全く先にも進めず、意味も分からず、何をどうすればよいのかさえ分からなかった。
ひとつアドバイスをするならば、形は同じでも、ある時から先生の動きが自分とは全く違う事に気付き、そこから本当の意味で研究をしだしたということだろうか。
そして、そこからがまた苦しかった。真似をしてもできないのである。いくらやってもできない。放棄してしまいそうだった。
研究、気付き、年月、量、これらを繰り返しながら、功は少しづつ育っていく。
2013,8,12 酷暑
Copyright(C)2003-2012 福岡伝統太極拳 湧泉会 All rights reserved.
当会の許可無く転載を禁じます。
中国武術の学び方⑩へ 最大の難関② 環境の変化①
中国武術の学び方のトップページへ戻る >>
中国武術の時間のトップページ へ >>
当ブログの記事が参考になった方は、ブログランキングへのご投票をして頂けると感無量です(^人^)



福岡伝統太極拳 湧泉会 公式ホームページ。
中国武術の時間 当会代表の個人ブログ
福岡八卦掌研究会 八卦掌専修教室
福岡伝統中国武術協会 協会の各教室の紹介
twitter@yusenkai 当会の練習記。
湧泉会@facebook 湧泉会公式facebook
- 関連記事
-
-
最大の難関② 環境の変化① 2010/12/10
-
自主稽古のやり方② 2010/12/10
-
最大の難関① 「型」「法」「功」 2010/12/08
-
拝師という制度 2010/11/10
-
中国武術界特有の習慣 2010/11/01
-
スポンサーサイト