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入門後の心得。 中国武術(太極拳)の学び方⑥

入門後の心得。


さて入門が決まって道場に通う日々である。

私は伝統流派の系統しか学んだ経験が無いので、主に伝統派といわれる系統に限って話を進める。またどうしても内家拳よりの話になってしまう点はご容赦頂きたい。

入門した最初の頃は、地味で単調な基本功の稽古が続いていることだろうと思う。いわゆる站樁や馬歩の稽古、そして数種類の基本功を学んでいることだろう。

しかし、この期間の稽古は、実は非常に重要な意味を持つことを覚えていて頂きたい。

入門当初のこの時期に行なわれる稽古の目的は、体質の改善(内面的な効果)と足腰の強化や体力の向上などの(外的な効果)があげられる。

具体的に言うと、站樁や馬歩の稽古は、正しい姿勢で行なうことで身体の内面を繋げ気血の循環を促し、体質を少しずつ改善させていく。稽古後は気持ちよい疲労感に包まれ、体は疲れにくくなり、夜もぐっすり眠れるようになっていくだろう。

また同時に歩法や基本功の稽古により、足腰は強化されバランス感覚も向上していく。基本功に関しては門派によって様々だが、体の柔軟性を高めるものやその門派の主たる体の使い方力の出し方を学ぶものが採用されているようだ。

こういった練習体系は、これから本格的に中国武術を学ぶための前段階、体作りの段階だと思ってよいだろう。ただし基本功は一生続けるべきだし、少しづつ自分で上達させていくべきものである。いつまでも初心者と同レベルでしか基本功を行なえないのでは問題がある。

ちなみにこういった練習過程を通過せず、いきなり套路(型)を学ぶような道場には本質的な部分は伝わっていないと思ったほうがよいだろう。

またある意味、この時期は修行者自身のやる気や素行を見られている時期でもある。心して学んで頂きたい。

前置きが長くなってしまったが、一般的な入門後の心得を箇条書きにしてみたので参考にしてほしい。

①身なりは清潔にし、礼儀を持って学ぶ。
これは、どの業界でも何の習い事でも同じであると思うが、特に武道関係の場合は厳しいように思う。たった一度の礼儀を外れた言動や行動で指導の対象から外れる場合もある。ちなみに男性で無精ひげで稽古に参加している人も気を付けたほうが良いだろう。無精ひげ→無精者→無礼者という印象を持たれる。やはり稽古は清潔な格好で行ないたい。

②欠席をしない。
口でどんなにやる気のあることを言ったところで、やはり稽古に来ない者はものにならないだろう。また無断欠席を繰り返すようであれば、やはり指導の対象外ということになる。

実は、この稽古を休むということにおいて、私自身の修行時代にひとつ印象に残るエピソードがある。少し長くなるが紹介しておこう。

それはN師父に師事していた頃の話で、私が欠席の連絡を入れた際に言われた言葉であるが、「あなたは、あなたの先生があなたを指導するために時間を作っているのを、自己理由でキャンセルするのですか?」とおっしゃられた。普段あまり感情を表に出さない師父がやや感情的になられたので今も強く印象に残っている。

当時の私は確かに稽古を休むのは申し訳ないと思ったが、なぜそこまで感情的になられたのかは分からなかった。

しかし自分が教える立場になって当時の師父の気持ちが少し分かってきたような気がする。

皆さんは、道場での先生しか知らないだろうし見たこともないだろう。しかし当然その先生にも普段の生活というものがある。

道場を経営している先生なら、道場で指導する以外にも経理関係などの事務作業や打ち合わせ、営業活動、指導プランの作成など様々な仕事があるだろう。当然在職の先生であれば皆さんと同じように日中は働いていることだろう。そして皆さんと同じく様々な家の用事もあるだろう。

つまり、先生は道場にいつもいる訳ではなく、皆さんを指導するために、わざわざ時間を作ってくれている訳である。(ここの点を理解せず、スポーツクラブの会員のように通える時だけ、通えば良いと思っていると、後々信用を失う事になる)

また中国武術の先生といえども、体調の悪い時やどこかを怪我して痛めている時もあるだろう。忙しくてどうしようもない時もあるかもしれない。しかしどんな状況であれ、先生は痛い顔はできないし、どんなに忙しくとも先生は生徒を指導するための時間を作っている訳である。逆にいえば、頻繁に稽古を休む先生には指導者の資格は無いと言えるだろう。

そう考えると、あの時の師父は他の用事をキャンセルして、私のために指導をする時間を作ってくれていたのかもしれない。体調が悪くとも私に伝えたいことがあったのかもしれない。私の場合は、弟弟子が入門するまでほぼマンツーマンで指導して頂いていたので、皆さんとは少し状況が違うかもしれないが、やはりその日の稽古は一期一会である。同じ指導を受けることはできない。その日の稽古はその時限りである。

そういった経験から、私自身も平然と自己都合で欠席を繰り返す人間には、あまり良い印象は持てない。先生に指導する時間を作らせているのであれば、やはり欠席をしないというのは、最低限の礼儀のように思う。

まだ欠席をするよりは、遅刻をしてでも稽古に参加したほうが良いだろう。また欠席の連絡は、稽古の直前ではなく、前日までにしたほうがよいと思う。稽古の直前であれば、先生も気分を害するだろう。いずれにしても、病気や仕事以外の理由で欠席するのは、マイナスの印象でしかない。やはり学ぶ以上は、絶対に稽古を休まないというのが鉄則である。

③遅刻をしない。
これも当たり前のことだが、当然遅刻はしない方がよいだろう。どうしても稽古に間に合わない場合は、やはり理由を事前に連絡するべきだろう。

また特に印象が悪いのは、慢性的な5~10分程度の遅刻である。明らかな理由があって遅刻するのは仕方ないかもしれないが、5~10分程度の遅刻の場合は、単に怠け癖がある人間として印象を持たれるだろう。

④学んだことを復習し、次回の稽古に備える。
覚えが悪いのは仕方ないが、覚えが悪ければメモを取るなりして覚える努力をする必要があるだろう。何の努力もせず復習もせず上達するのは、一部の天才だけである。

⑤会の規則を守る。
守れなければ除名や破門の対象ということになるだろう。

⑥会の方針や方向性に従う。
これは、何らかのイベントに出場するなど、その門派をあげての活動があるだろう。そういった場合は、参加するに限らず、運営面でもできる限り協力したほうが良いだろう。また中国武術の世界では、その先生の先生や兄弟弟子を呼んで弟子に指導してもらう習慣もある。そういった場合も参加するのは当然だが、自分の先生以上に礼儀を持って接し、出迎え歓迎する気持ちが必要である。間違っても先生の師匠や兄弟弟子などの一門の人間をないがしろにしてはならない。それは師の面目を一番つぶす行為である。

さて自分自身を当てはめてみるとどうだろうか。

この段階では、一般的な社会常識とさして変わらないのではないだろうか。

例えば、あなたが会社の上司として新入社員を見た場合、

①不潔で礼儀がない。
②欠席が多い。無断欠席をする。
③遅刻が多い。
④仕事の覚えが悪い。また覚える努力をしない。
⑤会社の規則を守らない。
⑥会社の方針や方向性に従わない。上司の上司や同僚をないがしろにする。

上記のような人間であればどう思うだろうか。

やはりクビにするか、仕事をさせるにしろそれなりの仕事しかさせないだろう。リストラの第一候補は間違いない。指導の対象から外れるというのは、そういうことである。教えはするが、上達をさせる対象ではなくなるということだ。

中国武術の世界では、古くから門弟(一門の弟子)と学生(一般の生徒)を分ける習慣がある。より専門的な中国武術界の習慣は次回以降に詳しく紹介するが、この社会常識の段階で引っ掛かる場合は、一生学生扱いとなり、実伝や真伝といった本質的な部分の指導は、生涯受けることはできないことになる。

2010-10-18 記

追記
〔中国武術の学び方〕関連の記事は、やはり気持ちを込めて書いたからだろうか、たまに読み返してみる事も多い。

この「入門後の心得」のページを読み返してみても、基本的な考え方は変わっていないが、この頃は今よりも一生懸命だったんだなぁとか、少し若かったのかな等と考えてしまう。

それだけ私も指導者として経験を積み、やはり年も取ったのだろうか。

例えば、②欠席をしない。にしても、もちろん欠席をしない事にこしたことはないが、功夫というものは、短期間だけいくら熱心に練習しても、そう簡単に上達するものでもなく、やはり年月の積み重ねが必要であり、たまには家族サービスや気分転換も兼ねて遊びに行って来いという感じである。

稽古に行き詰った時は、気分転換をして、また頑張れば良いし、人生は色々な事があるのだから、その問題に対し、その都度対処して、根気強く頑張って行きなさい。という事である。

2013-5-18 記




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